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京都地方裁判所 平成12年(モ)1130号 決定 2000年6月28日

別紙当事者目録記載のとおり

主文

一  右当事者間の京都地方裁判所平成12年(ヨ)第599号株主総会出席禁止仮処分命令申立事件について、当裁判所が平成12年6月23日にした仮処分決定を認可する。

二  訴訟費用は、債務者らの負担とする。

理由

第一  事案の概要

一  債権者は、債権者の株主である債務者らが、債権者の平成11年度株主総会において、威力、暴力等を用いてその円滑な進行を妨害したため、今年度の株主総会(以下「本件株主総会」という。)においても、同様に妨害行為に及ぶ蓋然性が高いとして、株主総会を正常に進行することを通じて株主の利益を維持する権利を被保全権利として、債務者らが本件株主総会に出席することを禁止する旨の仮処分を申し立てた。当裁判所は、これを相当と認め、右申立てを認容する旨の仮処分決定を発令した。これに対して、債務者らが保全異議の申立てをした。

二  本件の争点は、被保全権利及び保全の必要性があるか否かである。すなわち、債務者らは、平成11年度株主総会における債務者らの行動は、株主としての正当な権利の行使であって、何ら債権者の権利を侵害しておらず、また、債務者甲山花代こと甲野花子(以下「債務者花子」という。)については、同総会において一切妨害行為をしておらず、本件株主総会においても妨害行為をすることはないから、被保全権利の疎明がないし、保全の必要性もないと主張する。

第二  争点に対する判断

一  本件疎明資料及び審尋の全趣旨によれば、以下の事実が一応認められる。

1  債権者は、銀行法に基づき銀行業を営む法人である。

2  S協議会は、京都S地区の発展と地区住民の健全な生活及び福祉の増進を期するために必要な事業を行うことを目的とする権利能力なき社団である。債務者甲野太郎(以下「債務者太郎」という。)は、同会の委員長であり、債務者花子は、同会の委員(経理部長)である。

3  S協議会は、昭和62年5月ころから、会長の肩書きを有するTにより、債権者出町支店において預金口座を開設し、同人の指示により預金口座の出入金を行っていた。この口座に関し、S協議会委員長のF(以下「F」という。)は、平成4年ころから、「債権者出町支店の副支店長とTが共謀して、通帳、届出印を使わずにチットブック(備忘録)による不正な出金が行われた。」として、債権者に対し、抗議活動を繰り返すようになった。

4  債権者は、平成7年7月、Fに対し、面談強要禁止等仮処分の申立てをしたところ、和解が成立し、前記口座に関して要求する全資料(各口座の推移表、払戻請求書原本等)をFに閲覧させた。これによって、S協議会の抗議活動は一旦終息した。

5  S協議会は、平成9年10月、再建総会において、債務者太郎を委員長に選任するとともに、債務者花子を委員(経理担当)に選任した。なお、同人は、平成10年2月、同会の委員(経理部長)に選任された。

6  S協議会は、右再建総会後、債権者の本店、出町支店等において、「債権者出町支店におけるS協議会の預金口座の改印・解約が無断で行われ、現金の受渡しも不明瞭である。」などとして、再び抗議活動を行うようになった。この抗議活動の一環として、平成9年10月29日には、債務者花子らとともに債権者本店を訪れた債務者太郎が、灯油をかぶり、ライターを構えて焼身自殺をするかのような行動をとるなどした。

7  そのため、S協議会に対しては、京都地方裁判所において、次のとおりの各仮処分決定が発令されている。

<1> 平成9年11月18日、債権者の本・支店等及び役員宅への立入りなどを禁止する仮処分(平成9年(ヨ)第1369号)

<2> 平成10年8月24日、債権者本店から半径300メートル以内の地域において、横断幕、のぼり、プラカード等を立てて、居座り、集団で徘徊し、大声で演説するなどして債権者の業務の妨害をすることなどを禁止する仮処分(平成10年(ヨ)第924号)

<3> 平成10年10月2日、債権者の役員宅から半径500メートル以内の地域において、横断幕、のぼり、プラカード等を立てて、居座り、集団で徘徊するなどして、債権者の業務の妨害をすることなどを禁止する仮処分(平成10年(ヨ)第1029号、1036号)

8  しかし、債務者らをはじめとするS協議会の構成員ら数十名は、その後も右各仮処分決定に違反して、頻繁に債権者本店、出町支店等の付近に赴き、大型拡声器を用いて大音量で、「156億円を印鑑も通帳もなくどこにやった。」「金返せ。」と連呼し、また、座込みを行うなど抗議活動を継続した。その際、債権者本店で警備に当たっていたガードマンに暴行を加えたりすることもあった。

9  S協議会は、前記7<2>及び<3>記載の各仮処分決定につき、保全異議の申立てを行ったが、平成11年4月1日、各仮処分決定を認可する旨の決定がされた。その後も、債務者らS協議会構成員らが前記7記載の各仮処分決定に違反した抗議活動を頻繁に行ったため、債権者らの申立てにより、平成12年5月31日、S協議会に対し右各決定に違反した場合1日につき金200万円の支払いを命ずる旨の支払予告決定(間接強制)が発令されたが、債務者らをはじめとするS協議会の構成員らは、これを無視し、その直後の同年6月12日から14日の3日間連続で、債権者本店に押し掛け、前記同様の抗議活動を行った。

10  ところで、債務者らをはじめとするS協議会の構成員ら合計41名は、前記7<3>記載の仮処分決定発令後の平成10年10月13日、債権者の株式合計4万6,000株を取得した。そして、債務者らは、債権者の平成11年6月29日開催の同年度株主総会直前に行った債権者出町支店付近での抗議行動の中で、「株主総会を粉砕する。」などと連呼した上、同総会当日には、会場入り口における手荷物検査に際して、これを妨害するなどし、総会開始後も、「S協議会の預金156億円が通帳も印鑑もなく出金された。」などと議題に無関係な質問と抗議を繰り返し、総会の議長が静粛にするよう指示をしても債務者らは従わず、「金返せ。」「異議あり。」などと大声で騒ぎ、株主総会の正常な運営を妨害し、結局、野次と怒号が続く中で同総会は終了した。

11  そして、S協議会構成員らは、前記9記載の抗議活動の中で、「我々は4万5,000株の一般株主だ。今年の株主総会は徹底的に粉砕する。」「今年の株主総会は覚悟しろ。」「今年の株主総会は死をかけて闘うぞ。」「今年は去年の株主総会の数倍暴れるぞ。」「今年の株主総会は一人、二人の死人が出るぞ。」「今年の株主総会は数人の逮捕者が出るぞ。」「今年の株主総会は、数人の逮捕者が出ても、数人の怪我人が出ても、去年より混乱させるぞ。」などと連呼している。

二  そこで検討すると、株主総会の議長には総会を公正かつ円滑に運営する権限が与えられている(商法237条ノ4)ところ、議長は、株式会社から総会の議事運営という特殊の会社事務の委託を受けていると解されることに鑑みると、委任者たる会社にも、総会を混乱させることなく、総会の議事を円滑に運営し、終了させる権限があるというべきである。そして、株主総会が株主の総意によって株式会社の基本的事項についての会社の意思を決定する機関であり、その円滑な進行は会社の企業活動全般にとって極めて重要なものであること、一方、総会開会前に議長がその運営等につき必要な措置を講じることは現実には期待できないことを考慮すると、総会開会前においては会社が、右の必要な措置を講じることができるものと解すべきである。

前記一記載の事実に照らせば、債務者らの平成11年度株主総会における行動は、債権者に対する抗議行動の一環として行った、議題とは無関係なものであって、株主としての権利行使の範疇を超えたもので、正当な権利行使ということはできないと一応認められる。そして、前記一記載のとおり、債務者らが、この1年間、同様の形態での抗議行動を続け、最近の抗議行動の中で、本件株主総会につき、平成11年度株主総会以上に混乱させることを宣言していることに照らすと、債務者らは、本件株主総会においても、平成11年度同様、株主としての正当な権利行使の範疇を超えた妨害行為に出て、債権者の株主総会の議事を円滑に運営し、終了させる権限を侵害する蓋然性が高いものと一応認められる。

加えて、債務者らが、裁判所の発令した仮処分決定に反する抗議行動を執拗に行っていることに鑑みると、債務者らに対して、株主総会会場内における総会の円滑な進行を妨げる行為を個別具体的に禁止するだけでは足りず、株主総会への出席自体を禁止する必要性が高いというべきである。

この点、債務者花子は、平成11年度の株主総会における妨害行為には一切関与しておらず、したがって本件株主総会への出席を禁止される理由はない旨主張するが、前記一記載のとおりの同人のS協議会における地位及び役割、そして、債権者に対する抗議行動への参加態様等に照らすと、本件株主総会において、その円滑な進行を妨げる行為に出る蓋然性は高いというべきである。

以上によれば、本件株主総会の議事を円滑に運営し、終了させるため、債権者が講ずべき必要な措置として、債務者らが株主総会に出席することの禁止が認められるべきである。

第三  結論

以上より、被保全権利及び保全の必要性ともに一応認めることができるのであって、原決定は正当であり、認可すべきであるから、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 宮城雅之 裁判官 小見山進 三輪方大)

(別紙)当事者目録

債権者 株式会社東京三菱銀行

右代表者代表取締役 岸暁

右債権者訴訟代理人弁護士 宮﨑乾朗

弁護士 大石和夫

弁護士 林泰民

弁護士 玉井健一郎

弁護士 板東秀明

弁護士 関聖

弁護士 田中英行

弁護士 松並良

弁護士 河野誠司

弁護士 下河邊由香

弁護士 宮原正志

弁護士 中西啓

弁護士 北浦一郎

債務者 甲野太郎

債務者 甲山花代こと

甲野花子

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